医師・薬剤師のための医薬品副作用ハンドブック

監修:寺本民生

  



序文
 医療の本来的目的は,患者を社会復帰に導くことである.したがって,医療そのものが患者に益することはあっても害することがあってはならない.しかし,多くの医療行為は,益する部分とともに害する部分もある.したがって,薬剤の有効性と副作用とを天秤にかけて有効性が副作用をはるかに上回って患者に益することを期待して投薬することが重要である.その際に,重要なことが患者サイドへの情報の提供である.すべての薬剤投与行為にはインフォームドコンセントが必須であることは言うまでもない.インフォームドコンセントにおいて,副作用情報は必要不可欠な知識といえよう.そして,医療者においてどんなに時間がなくても患者サイドへの副作用の情報提供とともに納得していただく努力が要求されている.また,副作用については,副作用を重篤化させないことも重要であり,したがって,患者サイドへの情報提供の際にはいかなる症状(具体的な)がどのような時期に起こりうるのかという点まで情報提供することが患者を守るという視点から重要なこととなろう.

 このような細心の注意を行っても,起こりうる副作用はありうる.一つは,極めてまれな副作用であり,一つは,予想できなかった副作用である.極めてまれであり,適正に使用していたにもかかわらず,かつ適正な情報提供があっても起こってしまう副作用も残念ながらある.これは,医療者にとっても患者にとっても不幸なことである.このような場合の救済措置として‘医薬品副作用被害救済制度’がある.この制度が実際に運用された副作用原因医薬品は平成18年度から22年度の報告をみると,中枢神経系用薬が最も多く,続いて抗生物質,ホルモン剤,化学療法剤と続く.そして,副作用による健康被害をみると,最も多いのが皮膚粘膜眼症候群などの‘皮膚および皮下組織障害’であり,続いて低酸素脳症などの‘神経系障害’,肝胆道系障害,アナフィラキシー様ショックなどの免疫系障害と続く.これらの副作用については,適正に使用されていることは言うまでもないが,適正なインフォームドコンセントがなされていたにもかかわらず起こっているということに留意されたい.つまり,医療者にとっては,いかにまれな副作用であろうと健康障害を起こすような副作用については熟知して,医療行為にあたらねばならないという義務があるのである.

 予想できなかった副作用も残念ながらある.いわゆる薬害事件である.古くさかのぼれば,サリドマイド事件,キノホルムによるSMON(subacute myelooptic neuropathy)がある.医療者は,常に謙虚に副作用を監視する義務があり,報告する義務がある.

 本書は薬剤の副作用についてコンパクトにまとめていただいた.臨床現場において,手軽に見開く書として活用されることを期待したものである.少しでも副作用の発現抑制,ならびに重篤化予防に資するところがあれば,幸いである.

2013年10月 寺本民生

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